国土交通省は7月9日、令和2年度の三大都市圏ならびに主要路線の最混雑区間の混雑率実績を公表しました。
新型コロナウィルスによる出控えや、テレワークの普及などの新しい生活様式の影響を本格的に受けた初めての混雑率調査で、多くの路線で約3割程度減少し、三大都市圏の平均混雑率は各々100%台まで減少しました。
路線別では、殺人的な混雑路線として有名な東京メトロ東西線、JR横須賀線などを抑え、日暮里舎人ライナーが堂々1位の140%。首都圏のJR路線の最混雑路線は、武蔵野線の134%。例年199%をキープし続けてきた東京メトロ東西線は123%まで減少しました。
国土交通省は、1992年の運輸政策審議会において、都市鉄道の主要路線の平均混雑率150%を目標に各種政策を推進してきましたが、図らずもこの目標が達成された一方、2020年度の鉄道各社はほとんどが赤字決算となり、ウィズコロナにおける都市鉄道政策の見直しの必要性が改めて浮き彫りになりました。
<目次>
混雑率とは
混雑率は、一般社団法人日本民営鉄道協会によれば、次のように定義されています。
"輸送人員÷輸送力"で算出される混雑度の指標のことを「混雑率」といいます。都市鉄道の主要路線の混雑率は、各路線の"最混雑区間における1時間あたりの平均混雑率"として毎年公表されています。
したがって、乗客(輸送人員)が増えれば、混雑率は増加しますし、減れば減少します。輸送力は、最混雑時間帯1時間に走る列車の定員がベースになっていて、列車の本数や両数が増やすほか、車両の大型化や立ちスペースを増やして車両定員を増やすことえ、混雑率を下げることができます。
三大都市圏主要区間の平均混雑率
三大都市圏の混雑率は、次のようになりました。
- 東京圏 107%(対前年度▲57ポイント)
- 大阪圏 103%(対前年度▲23ポイント)
- 名古屋圏104%(対前年度▲28ポイント)
冒頭記載の通り、新型コロナウィルスの影響で、図らずも国土交通省が長年目標にしてきた平均混雑率を下回る結果となりました。
東京圏が減少幅が大きくなっており、筆者は、東京圏は、比較的大企業や大学が多く、テレワークや在宅勤務、オンライン授業が進みやすかった結果ではないかと分析しています。
路線別の最混雑区間の混雑率
一方、路線別の混雑率上位を見てみましょう。
日暮里舎人ライナー
日暮里舎人ライナーは、東京都交通局が運行する新交通システムで、コンクリート製の専用軌道をゴムタイヤで走ります。
かつて陸の孤島と呼ばれた東京都足立区の舎人エリアと、JR山手線などが走る西日暮里駅、日暮里駅を結び、最混雑区間は赤土小学校前駅~西日暮里駅です。
日暮里舎人ライナーは、前年度も混雑率が189%と東急田園都市線を超える混雑ぶりでした。
今年度は、コロナの影響を受けたものの、減少率は26%程度と、東京圏全体の減少率35%と比べて少ないのが特徴です。
その理由は、足立区の住民の方の職業構成にあると筆者は分析しています。
平成27年度国勢調査の職業(大分類)別就業者数を見ると、比較的テレワークを導入しやすいであろう「事務従事者」の割合が19%(東京都全体は23%)と少なく、代わりに「生産工程従事者」が9%(東京都全体は7%)、「運搬・清掃・包装等従事者」が7%(東京都全体5%)など、テレワークがそぐわない職業の方が多いためではないかと考えています。
JR信越本線
JR信越本線は、かつては群馬県の高崎駅から長野県を経由して新潟駅に至る長大路線でしたが、北陸新幹線の開業に伴い一部が第3セクターに転換され、群馬県高崎駅~横川駅間と、新潟県の直江津駅~新潟駅間がJR東日本に残っています。
前年度と比べて6ポイントのみの減少で、首都圏の路線と比べるとほとんど減っていない印象です。
新潟県は、新型コロナウィルスの感染者が三大都市圏に比べると少なかったこともありますが、新潟駅周辺には学校が多く、高校生を中心としてもともとかなりの混雑路線であったことも要因であろうと分析しています。
JR武蔵野線
JR武蔵野線はもともと貨物路線で、南武線の府中本町駅から埼玉県を経由して大きく迂回し、千葉県の西船橋駅に至る区間が旅客化されています。
武蔵野線の混雑率は対前年度19%の減少と、減少幅が小さくなっています。
筆者は、これも信越本線と同様に高校生を中心とした通学客の影響ではないかと分析しています。
南浦和駅では、ほとんどの乗客が京浜東北線に乗り換えますが、京浜東北線の埼玉県内(大宮駅~南浦和駅~川口駅)は、中学校や高校、特に県立高校が多く立地しているためです。
そして、埼玉県は東西に延びる鉄道路線が少なく、南北に延びる東武スカイツリーラインや埼玉高速鉄道沿線の学生が、これらの学校にアクセスするため、武蔵野線に殺到しているのです。
これまでの最混雑路線の状況
最後に、前年度まで不動の混雑路線の地位を確立していた路線の混雑率を発表します。いずれも都心に向かう路線で、緊急事態宣言による出控えや、テレワークなどの新しい生活様式の浸透の影響を受けやすかった路線です。
- 東京メトロ東西線 123%(対前年度76ポイント、38%減)
- JR横須賀線 117%(対前年度78ポイント、40%減)
- JR総武緩行線 111%(対前年度83ポイント、43%減)
- JR東海道本線 103%(対前年度90ポイント、47%減)
これらのかつてのレジェンドは、約4割減少して、とても穏やかな数字に落ち着きました。
まとめ
このように、新型コロナウィルスの影響で、混雑路線の勢力図は大きく形を変えることとなりました。この状況は、コロナによる一時的な出控えもありますが、新しい生活様式、新しい働き方の浸透によるものも大きいと考えており、アフターコロナにおいても、完全にはもとには戻らないでしょう。
混雑緩和が図らずも達成されつつある一方で、JRや東京メトロも含めた鉄道各社は赤字決算に喘いでいます。
鉄道各社のビジネスモデルの大きな転換を迫られていることは事実ですが、運輸政策としての今後の鉄道のあり方というのも、政府を含めて考えていかなくてはならないと思います。
幸いにも、混雑が緩和され、空間に余裕ができたわけですから、短絡的に本数減でコストをカットするのではなく、その空間で乗客に対してどのような付加価値を提供できるかが路線間競争に打ち勝つ重要テーマとなります。
混雑率100%と言えども、全員座れるわけではないですし、座れたとしても乗客ができることは限られています。その時間、その空間において、乗客が快適なだけでなく、「できること」の選択肢を増やしてあげる施策を打ち出し、「敢えて乗りたい通勤電車」を目指してはいかがでしょうか?
参考文献
国土交通省報道資料
https://www.mlit.go.jp/report/press/tetsudo01_hh_000163.html
一般社団法人日本民営鉄道協会鉄道用語辞典
混雑率 | 鉄道用語事典 | 日本民営鉄道協会
足立区の人口と世帯-平成27年度国勢調査-https://www.city.adachi.tokyo.jp/documents/4935/adachinojinnkoutosetai27.pdf
東京都交通局日暮里舎人ライナー
日暮里・舎人ライナー | 東京都交通局
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