みなさん、こんにちは😊
鉄道が環境にやさしい乗り物というのは、よく耳にすると思います。
お客さま1人を1km運ぶのに発生するCO2は、自動車に比べて約1/7とか1/8と言われています。
しかし、そうは言っても、電車はたくさんの電気を使っていることは紛れもない事実です。
たとえば、JR東日本は年間で58.3億kwhの電気を使用しており、その電気を作るために約206万tに相当するCO2が火力発電所などからモクモクと出ているわけです。(2018年度実績)
https://www.jreast.co.jp/press/2020/20200512_ho02.pdf
そんな中、鉄道会社は、子供達に豊かな地球を残すため、CO2を出さずに作った電気を使って電車を走らせ始めています。
いったいどんな電車たちなのでしょうか?
1.東急世田谷線
東急田園都市線の三軒茶屋駅から、京王線の下高井戸駅まで住宅街をゆっくりと走ります。
世田谷線は、2019年3月に全線、全列車が東北電力が水力と地熱で発電した再生可能エネルギーでの走行を開始しました。
再生可能エネルギーで走行する都市通勤電車は、当時では日本初でした。
世田谷線は全長5kmの路線で、この取り組みのより、1年間で約1,269t-CO2を削減。
これは、東京ドーム0.5個分の容量に相当するそうです。
床が低く、お年寄りや車椅子を使っている方にも優しい世田谷線は、地球にも優しい運行を行っています。
再エネ100%による世田谷線の運行について|東急パワーサプライ
2.SDGsトレイン美しい時代へ号
またまた東急で恐縮ですが、SDGsトレイン美しい時代へ号を紹介します。
SDGsトレインは、東急東横線、田園都市線、世田谷線でそれぞれ1編成ずつ走っていて、車体はSDGsの17ゴールをイメージした多様な色が施されれているほか、車内では国連が提唱するSDGsを啓発するコンテンツや、身近なことでSDGsに貢献できる取り組みなどを紹介しています。
例えば、鉄道を利用することは、CO2を追加で発生させずに移動することができるだけでなく、地域の重要なインフラである鉄道を街に残すことにつながり、街の発展と環境保護の両方を実現させることができます。
SDGsトレインのうち、世田谷線の1編成は前述の通りの電力供給を受けて走っています。
東横線、田園都市線の各1編成は、Jクレジット制度によるカーボン・オフセットにより実質的なCO2排出ゼロを実現しています。
Jクレジット制度では、森林管理事業者や太陽光発電を導入した会社などCO2排出量の削減やCO2吸収量の創出を行った「Jクレジット創出者」が「Jクレジット購入者」に対して、「Jクレジット」を売却する制度です。
これにより、「Jクレジット購入者」は購入した分のCO2を排出しなかったことになり、「Jクレジット創出者」はその資金で更に地球にやさしい取り組みを推進することができます。
この場合、東急電鉄が、「Jクレジット購入者」ということになります。
なお、SDGsトレインは相互直通運転で東京メトロや東武線、西武線などに入りますが、鉄道の電力供給は運行会社ごとに契約しているため、カーボン・オフセットされるのは、東急線内のみとなります。
3.SDGsトレイン未来のゆめ・まち号
SDGsトレインの取り組みは、東急グループと阪急阪神グループの共同で行っており、阪急線や阪神線でも走っています。
阪急阪神では、「SDGsトレイン未来のゆめ・まち号」として、阪急神戸線、宝塚線、京都線と阪神本線、なんば線で走ってます。
車体には、イラストレーターのウマカケバユミコさんによる、未来へのパレードが描かれています。
阪急阪神ホールディングスは、これ以外にも、SDGsが提唱されるよりも前から「ゆめ・まちプロジェクト」として、「未来にわたりすみたいまちをつくる」ことを目指して社会貢献活動を続けてきました。
沿線の住民参加型の企画や、ゆめ・まちSDGsドリルなどの啓発活動などを積極的に行い、第4回ジャパンSDGsアワードでは、SDDsパートナーシップ賞を受賞しています。
阪急線、阪神線のSDGsトレインは、太陽光、水力、風力などの再生可能エネルギーで発電した電力を、関西電力の調達により走っています。
4.小田急ロマンスカーVSE
特急電車としては、小田急ロマンスカーVSE50000形のうち、2編成が、「ゼロカーボンロマンスカー」として走っています。
ゼロカーボンロマンスカーは、東京電力エナジーパートナーより、太陽光などで発電された電力の供給を受けて走ります。
具体的には、電気の供給を受ける際に、石炭や石油を使わずに発電されたことを示す「非化石証書」という、電気の血統書のようなものをつけてもらうことで、実質的にCO2を出していない電気を使用していることになります。
この2編成で、年間約1,566tに相当するCO2の削減が実現されるそうです。
VSE50000形は、展望席がついているロマンスカーです。
展望席で運転士気分を味わいながら、脱炭素社会にも貢献できるなんて、THE SDGsですね!
https://www.odakyu.jp/news/o5oaa1000002024b-att/o5oaa1000002024i.pdf
5.京急空港線
羽田空港に向かう京急空港線も再生可能エネルギーで走っています。
京急空港線は、京急本線と分岐する京急蒲田駅から羽田空港第3ターミナル駅を通り、羽田空港第1・第2ターミナル駅まで結ぶ路線です。
ほとんどが京急本線からの直通列車で、横浜方面から主にエアポート急行、品川方面からは主に快特やエアポート快特が運行されています。
なかでも、エアポート快特は、品川駅から羽田空港第3ターミナル駅までがノンストップなうえ、品川以北の都営浅草線内も主な駅にしか停まりません。
成田空港との直通列車もあり、夢が広がります。
京急空港線内の取り組みは、小田急ロマンスカーVSEと同様に非化石証書を使用した電力ですが、京急空港線には、直通先の都営浅草線、京成線、北総線、千葉ニュータウン鉄道などの車両も乗り入れてくるのが特徴で、車両の性能や所属に関わらず、同線内のゼロカーボンを図っているのはとても珍しい取り組みです。
空港線は日中10分間隔で、1日約400本の列車が走っています。
これらの列車の運転をゼロカーボンとすることで、年間約3,457tに相当するCO2を削減しています。
羽田空港は、駐車場もたくさんありますが、難民になることも多いので、京急の直通列車で環境にやさしく飛行機に乗ることができます。
(飛行機もそれなりのCO2を出しますが・・・)
6.西武レオライナー
西武鉄道では、新交通システムの山口線(レオライナー)が太陽光で発電された電気で走っています。
レオライナーは、メットライフドームがあり、池袋線からの列車が乗り入れる西武球場前駅から、昭和レトロな世界観にリニューアルした西武園ゆうえんちを通り、西武新宿線からの列車が乗り入れる多摩湖駅まで走る列車です。
多摩湖周辺の西武グループのリゾート地を走り、レオライナー自身も遊園地のアトラクションのようです。
レオライナーの電力供給の特徴は、西武鉄道自身の太陽光発電所で作られた自前の電気で走っていることです。
具体的には、神奈川県横須賀市などにある西武鉄道の太陽光発電所「西武武山ソーラーパワーステーション」で発電された電気を使用。
とはいえ、レオライナーの線路からはかなり離れており、直接給電はできないため、東京電力エナジーパートナーにいったん売電し、それを非化石証書付きで再度供給を受ける仕組みです。
これにより、約300tに相当するCO2を削減しています。
https://www.seiburailway.jp/news/news-release/2020/20210331_yamaguchi_solar.pdf
この取り組みは2021年4月より開始され、時をほぼ同じくして西武園ゆうえんちも「昭和の熱気を遊びつくそう」をテーマにリニューアルされました。
遊園地を含めた多摩湖、狭山湖一帯は緑あふれるリゾート地になっていますから、レオライナーの脱炭素は走行エリアにマッチしていますね。
7.JR東日本FV-E991系
最後に紹介するのは、JR東日本のFV-E991系、愛称は「HYBARI」です。
FV-E991系は実験用の事業用車で、水素を燃料にして走ります。
具体的には、駅や車庫で水素タンクに充填した水素と、空気中の酸素を、燃料電池で結合させ、電気を発生させる仕組みになります。
水に電気を流すと、水素と酸素に分かれる実験を中学校あたりでやりましたが、その逆を行っているものです。
そのため、発電後も水が排出されるのみで、CO2はおろか、汚染物質も排出しません。
JR東日本によれば、2022年度には、南武支線、鶴見線での実験を行う予定でそうです。
一般の電車の脱炭素は、これまで述べてきたような取り組みでCO2の排出を抑えることができますが、非電化区間を走るディーゼルカーは対応できません。
現在でも、一部の非電化区間では、すでにトヨタ自動車のプリウスのようなハイブリッドで走る列車や、ディーゼルエンジンで直接モーターを回すのではなく、発電機を回して発電させてその電気で走るといった環境にやさしい列車は登場しています。
FV-E991系は、その上を行く仕組みで、同じく水素自動車を手がけるトヨタ自動車と共同で取り組んでいます。
https://www.jreast.co.jp/press/2019/20190603.pdf
8.鉄道会社が脱炭素に取り組む理由
実は、環境にやさしい鉄道会社は、さらに優しい会社になろうと、特に大手は躍起になっています。
それには、2つ大きな理由があると考えています。
1つ目は、将来のコスト増への対応です。
菅前首相は、2050年までの日本のゼロカーボンを宣言しました。
今後、それに向けた政策が打ち出されることとなりますが、もっとも話題となっているのが炭素税です。
炭素税は、排出するCO2の量に対して課される税金です。
炭素税が導入された場合、電力を大量に使用している鉄道会社にとっては大きなコストとなり、経営を脅かす規模になることも想定されます。
すでに地球温暖化対策税として、化石燃料の利用に対して、CO2相当1tあたり289円の課税が始まっており、実は、電気代やガス代に上乗せされています。
今後は電気などのエネルギーを利用する側(間接排出)にも課税されるようになれば、さらに経営を圧迫する可能性があり、炭素税の課税対象以外のエネルギー利用を模索しているのです。
もう1つは、人々の環境意識の向上です。
政府のこれらの取り組みやSDGsの普及によって、社会共通価値という考え方が世の中に広がってきています。
その中で、商品やサービスを選ぶ時の価値基準として、値段や性能に加えて、環境にやさしいか、人権問題など社会に負担をかけていないかという視点が入ってきており、特にZ世代と呼ばれる若者たちは、学校教育においてこういった価値観を学んできているため、非常に敏感になっています。
そこで、鉄道会社は、環境へやさしいことを更なるアイデンティティとして強みを活かし、新しい価値観の人々を公共交通へ誘導しようとしています。
これまでも、鉄道会社はこういった取り組みをコスト削減施策として行ってきましたが、昨今の気候変動に伴う災害の激甚化や新型コロナウィルスの蔓延により、その危機感は一気に増したような印象を受けます。
これらの鉄道会社の取り組みに応え、多くの皆さんが鉄道を利用してくれることを、鉄道マニアとして切に願っています。