おそらく東武鉄道の列車だけではないかと思うのですが、運転席に入る扉の上にこんな掲示物があります。
乗務員室にはたくさんの機器があってこれにふれると思わぬ事故が発生し危険です
立入ると鉄道営業法第33条によって罰せられます
鉄道営業法は法律なので、東武さんのみならず他の鉄道も掲示していないだけで同様に罰させれることになりますが、具体的にはどのように罰せられるのでしょうか?
ちなみに、ヤーコンは小学生のときにこれを見た時は、「たぶん鞭打ちの刑」だと思っていました(笑)
<目次>
1.鉄道営業法とは
日本民営鉄道協会によれば、鉄道営業法は「鉄道の設備について規定するほか、鉄道係員・旅客・公衆に対する禁止行為などを定めた法律」で、1900年に制定された歴史ある法律です。
そのため、本文も、「第一条 鉄道ノ建設、車両器具ノ構造及運転ハ国土交通省令ヲ以テ定ムル規定に依るヘシ」と半分古文のような文章になっています。
2.運転席に立ち入ったときの罰とは?
鉄道営業法第33条には次のように書かれています。
第三十三条 旅客左ノ所為ヲ為シタルトキハ三十円以下ノ罰金又ハ科料ニ処ス
一 列車運転中乗降シタルトキ
二 列車運転中車両ノ側面ニ在ル車扉ヲ開キタルトキ
三 列車中旅客乗用に供セサル箇所ニ乗リタルトキ
(日本語訳)
第三十三条 お客さんは次のことをやったら30円以下の罰金か科料を払え
一 列車の運転中に乗降したとき
二 列車の運転中に車両の側面にあるドアを開けたとき
三 列車の中のお客さん用の場所以外に乗ったとき
乗務員室に立ち入ることは、この三に該当しますので、最大30円を払わなくてはなりません、という記載です。
なにこれ、やすっ!!
と、思うじゃないですか。
鉄道営業法は歴史ある法律なので、記載されている金額も歴史的です。
一方、経済成長に伴って物価は上昇しますので、これに対応するため、罰金等臨時措置法という法律があり、次のように定めています。
(前略)罰金については、その多額が二万円に満たないときはこれを二万円とし(後略)
「多額」とは、上限の金額のことです。
と、いうことで、罰金の額は「2万円以下」に読み替えられることになります。
残念でしたね。
それでも、「2万円でいいなら運転室入っちゃおうかな~♪」という方はいると思います。
本当に大丈夫でしょうか?
3.罰より重い罰
ここで、「罰金」と「科料」について説明します。
この2つの違いは金額の大きさにによるだけで、本質的には同じです。
科料は千円以上1万円未満、罰金は1万円以上です。
そして、この2つは刑法で定める刑事罰であることが重要です。
よって、運転室に立ち入ったことでお金を支払うことに加えて、前科がつくということになり、社会的制裁を受けることになります。
就職活動や会社生活には絶望的な影響を受けることになりますし、その影響は家族にも及び、社会的な孤立や住み慣れた街を去らざるを得ない事例もしばしば耳にします。
4.悪質な撮り鉄への罰則は?
ところで、最近悪質な撮り鉄が問題になっています。
鉄道営業法では、ホームでの三脚使用や黄色い点字ブロックをはみ出しての撮影などの危険な行為に対する罰則は残念ながらありません。
これらに対しては、どのように取り締まるのか課題は残るものの、鉄道営業法の改正や各社ごとに定める運送約款に違約金条項を定めるなどの措置は行っても良いのではないかと考えています。
一方、沿線の撮り鉄が鉄道用地に立ち入る行為については、定めがあります。
第三十七条 停車場其ノ他鉄道地内二妄リニ立入リタル者ハ十円以下ノ科料ニ処ス
うまい棒が買える金額!(否、先日値上げしましたね)
ところで、運転室への立ち入りの時は、罰金等臨時措置法により、「2万円以下」に読み替えていました。
しかし、残念ながら、ここでは「科料」とだけ記載されており、罰金等臨時措置法では、「罰金」のみ規定しているため、ここでは読み替えが発生せず、10円以下を払えということになります。
これでは安すぎると問題視されているようですが、どちらかというと社会的制裁のほうが抑止力につながると思いますし、あとはどのように立件するかが考えどころなのかなと思っています。
なお、撮り鉄が沿線の方の土地に立ち入った場合は、「不法侵入」という言葉が浮かびますが、刑法では正しくは第130条で定める住居侵入罪が該当します。
住居侵入罪は、その名の通り住居や建造物が対象となり、残念ながら畑や駐車場などは対象外で罰則がありません。
そのため、この問題はモラルに委ねられがちで、本質的な解決には至っていません。
鉄道会社の安全の確保の一環としての撮り鉄対策や、沿線の方の権利保全としての自助努力に加えて、法制面での対応をいうのも重要ではないかと思います。
ただ、田舎の沿線は、私有地、鉄道用地、公道の境目がよくわかんないです・・・( ;∀;)