2023年6月8日(木)から、無記名Suica/PASMOの発売が中止になりました。
また、2023年8月2日(水)からは、記名Suica/PASMOの発売も中止になります(した)。
定期券機能や、小児Suica/PASMOに必要な記名Suica/PASMOはこれからも購入できますが、それ以外はしばらく買えないことになります。
その理由は、多分に及ばず世界的な半導体不足によるもの。
電車やバスだけでなく電子マネーとしてもお世話になっている交通系ICカードですが、それにしてもこんなに小さなカードの半導体にそんなに影響があるものなのでしょうか?
この記事では、ICカードの仕組みと、どんなことに気を付けたらいいのか解説していきます。
<目次>
- 1,記名Suica/PASMOと無記名Suica/PASMO
- 2,しばらく買えなくなるSuica/PASMO
- 3,「半導体」ってなに?
- 4,PASMOを分解してみた~ICカードは小さなコンピュータ
- 5,自動改札機にタッチした時に起こっていること
- 6,他の交通系ICカードは大丈夫か?
- 7,限りある半導体を大切に
1,記名Suica/PASMOと無記名Suica/PASMO
Suica/PASMOには、「記名式」と「無記名式」があります。
そのもっとも大きな違いは、本人情報が紐づけられているかどうかです。
「記名式」を発行することで、定期券情報の書き込みができたり、小児Suica/PASMOにして自動的に子供料金で精算ができるようになります。
(小児Suica/PASMOは駅員さんの窓口で発行してもらいます)
なお、Suica/PASMOは、中学生になると大人Suica/PASMOへ切り替えるために、駅員さんに一発作業をしてもらう必要があります。
さらに、「記名式」にすることで、もし失くしてしまったときに再発行できることも大きなメリットです(特に子鉄の場合)。
「無記名式」は、これらの機能が使えない代わりに、500円のデポジットを支払えば、券売機でパッと発行できることが魅力です。
その分、気軽にポンポコはできてしまうため、無駄遣いも多かろうという心配もあり、無記名Suica/PASMOが先行して新規発行を中止していましたが、いよいよ記名式も発行中止ということになります。
2,しばらく買えなくなるSuica/PASMO
具体的に、発売中止になるSuica/PASMOと、これからも買えるSuica/PASMOを確認しておきましょう。
JR東日本や関東地方の私鉄各社が発行する無記名および記名式Suica/PASMOのほか、東京モノレールのモノレールSuicaや東京臨海高速鉄道(りんかい線)が発行するりんかいSuicaも対象で。
スマホと一体になったモバイルSuica/PASMOは対象外です。
3,「半導体」ってなに?
そもそも半導体とは何でしょうか?
理科の授業になってしまいますが、電気を通すものを「導体」、通さないものを「絶縁体」といいます。
乾電池と豆電球をつなぐ実験で使用した電線や、電車の架線(トロリー線)やレールも「導体」です。
「導体」には、素材の性質や環境などによって電気抵抗があり、抵抗の大きいほど「導体」を通る電気の電圧が弱まっていきます。
「絶縁体」は電気抵抗がMAXのもので、電気を通しません。
代表的な「絶縁体」にはゴムなどがあります。
逆に電気抵抗がゼロの状態が「超電導」です。
超電導リニアで使われているのがそれです。
「半導体」とは、半分「導体」ということになり、半分「絶縁体」ともいえます。
どういうことかというと、電気の流れ方をコントロールできるのです。
この電気の流れや強さをコントロールすることで、電気信号による情報通信をハイレベルに行うことができることが最大の特徴です。
インターネットやICTテクノロジー、AIなどの活躍はまさにこの半導体サマサマということになります。
また、「半導体」の活躍や情報通信だけでなく、電流のコントロールとしても活躍しています。
VVVFインバータいう言葉を聞いたことがありますか?
VVVFインバータ装置は、電車のモーターに流れる電気の強さをコントロールする装置で、「半導体」が使われています。
電車がパンタグラフから取り入れる電気はものすごく高圧で、それをそのままモーターに流すと壊れてしまいますし、プラレールの車両にプラキッズを乗せていきなりスピード2に入れると倒れてしまうように、とても危険だったりします。
4,PASMOを分解してみた~ICカードは小さなコンピュータ
このような半導体は、コンピュータの脳みそにあたるCPUにもたくさん使われています。
実は、交通系ICカードの中にもこのCPUに相当するICチップが入っています。
実際に使い終わったPASMOを分解して解剖してみましょう。
※正確には、PASMOカードの所有権は株式会社PASMOに帰属するため、勝手に壊して はいけません。
PASMOを切り開いてみると、何やら丸いものと、カードの周囲をグルリと回る線が見えます。
この丸いものが半導体が使われているICチップでこのカードの脳みそにあたります。
このICチップに乗降駅や運賃計算の情報、電子マネーの情報などが記録されています。
周囲の線はアンテナです。
このアンテナで、自動改札機やICカードリーダーとの情報通信を行うのです。
5,自動改札機にタッチした時に起こっていること
ICカードは小さなコンピューターというと、しっくりこないことが1つあります。
それは、小さなコンピューター側に電源や電池がついていないことです。
ICカードという小さなコンピューターはどのように起動しているのでしょうか?
自動改札機は、リーダー部分から常に「ICカードはいねがぁ~?」というなまはげのような電波を発しています。
その電波とともに電磁誘導による給電も行われていて、給電で目を覚ましたICカードは、「ボクハココニイルヨ」というメッセージを自動改札機に返します。
その後お互いの確認ができると、例えば入場する場合ですと、自動改札機から入場駅や時間の情報がICカードに送られ、「入場」状態になります。
出場の時も同じで、お互いの存在確認の後、入場駅の情報から一瞬で運賃計算を行い、残高を精算、「出場」状態に戻します。
ICカードをしっかりとタッチしなかったりすると、このやり取りがうまくできず、改札に引っかかってしまいますので、ちゃんとピッと音が鳴るまでタッチしましょう。
6,他の交通系ICカードは大丈夫か?
パソコンやスマホなどの製造に影響が出ているのはもちろん、こんなに小さなICカードの製造にも影響が生じている半導体。
今回はSuica/PASMOが対象ですが、全国の他のICカードは大丈夫なのでしょうか?
交通系ICカードはすでに発行枚数が2億枚を超えています。
ナビット社の調査によると、交通系ICカードの所有しているカードのシェアは、Suicaが35.9%、PASMOが18.7%で首都圏勢が半数以上を占めます。
続く関西勢ですが、ICOCAが9.6%、Pitapaが5.3%と大きな差がついており、首都圏2種への半導体の影響がいかに大きいかがわかります。
(割合の合計に「所有していない」17.3%を含む)
今後半導体需要の影響を受けないとは言いきれませんが、Suica/PASMOほど喫緊ではないかもしれません。
7,限りある半導体を大切に
とはいえ、製造側(交通系ICカードは、ソニーの登録商標であるFeliCaの技術を使っている)がSuica/PASMOへの供給にシフトして相対的に小規模ICカード事業者への供給を減らすことも考えられますし、ICカードを作ること自体が世界の半導体需給の圧迫にもつながっていきます。
そういう意味では、モバイルSuicaやモバイルPASMOのように追加的に半導体を使わない手段を選んだり、最近鉄道会社でも導入が進んでいるQRコード決済、VISAタッチのようなクレジットカード決済やMaaSアプリなどを使用したチケットレスなどを使うのも有効です。
石油や石炭、ガスなどの限りある天然資源を大切に使うことはSDGsでも謳われていますが、同じように半導体も大切に有効に使っていきたいものです。
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