ボクの息子はもう子鉄じゃないかもしれない。

子鉄(?)ヤンヤン(中1)の父であり、実写版アラレちゃんの娘ミーミー(小3)の父が、鉄道や子育てを楽しみながら、地方鉄道を救済していく物語です。子供の「だいすき!」「やってみたい!」を大切に子育てをしています♪ 子鉄応援ありがとうECショップ「でんしゃデパート」もやっています。本業はとある鉄道会社のSDGsおにいさん。なので、専門的な記事もあります。

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北総鉄道 通学定期券を64.7%値下げ〜沿線市長への重責と千葉ニュータウンの生き残りをかけた運賃戦略

みなさん、こんにちは。

北総鉄道は、全線で運賃値下げすると発表しました。

北総鉄道の運賃は高額であることで知られ、以前より訴訟も含めて問題になっていましたが、2021年10月に値下げの方向性がニュースになり、今般、内容が正式にリリースされたものです。

北総鉄道は京成スカイライナーも走っており、運賃なスキームはやや複雑ですので、10月に執筆した解説も合わせてご覧ください。

今回は、値下げな詳しい内容と、その裏に隠れた北総鉄道の危機感と戦略を解説します。

smallanthussonchifolius.hatenablog.com

 

<目次>

 

北総鉄道と値下げをざっくり解説

北総鉄道は、京成本線京成高砂駅から、千葉ニュータウンを通り、印旛日本医大駅までの路線で、そのうち小室駅から印旛日本医大駅までは、千葉ニュータウン鉄道から施設を借りて運営しています。

また、京成スカイライナーアクセス特急は、京成成田空港線として走っていて、これらの列車に対しては、北総鉄道京成電鉄に施設を貸していることになっています。

詳しくは、冒頭で紹介した以前の記事に記載しています。

今回値下げするのは、北総線内の京成高砂から印旛日本医大駅までの区となります。

値下げ幅は、全体で15.4%

今と比べて、常に15%引きということになるので、かなり思い切った値下げという印象を受けます。

切符の運賃は、初乗りが210円から190円になり、区間によっては100円安くなる区間もあります。

通勤定期券は、毎日乗った時の切符の運賃の合計に割引率をかけて計算するので、こちらも同様に値下げとなります。

そして、今回の目玉は、通学定期券の値下げです!

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北総線を取り巻くスキーム図(作成:ヤーコン)

 

目玉は通学定期券の値下げ〜特別に成田空港駅からまでも!

北総線の値下げの中でも、通学定期券は大幅な値下げを行います。

値下げ幅は、なんと!64.7%!!

例えば、京成高砂駅印西牧の原駅間の通学定期券は、
・1か月定期 14,990円⇒  4,990円(△10.000円)
・3か月定期 80,950円⇒26,950円(△54,000円)
と、なります。

1か月で万単位での値下げとなるのは、驚愕ですね。

通学定期券の運賃は、通勤定期券と同様に、毎日乗った時の運賃の合計額に割引率を掛けて計算します。

通学定期券の運賃が、切符の運賃以上に値下げになったいるのは、割引率を引き下げたためです。

例えば、京成高砂駅印西牧の原駅の1か月通学定期で考えると、

【これまで】
通学定期券・・・・・・・14,990円
切符810円×往復×30日・・48,600円
(48,600円-14,990円)÷48,600円=69.2%

【これから】
通学定期券・・・・・・・  4,990円
切符770円×往復×30日・・46,200円
(46,200円-4,990円)÷46,200円=89.2%

となり、割引率は9割近く。

沿線の学生さんは、4日間学校に行けばもとが取れる計算になります。
毎週東京に遊びに行くだけでもOK

子育て世帯には、ありがたいですね。

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北総線内から都営浅草線京急線にも乗り入れる9100形C-Flyer

成田空港までの運賃はどうなるの?

スカイライナーが通る区間の値下げということで、気になるのはスカイライナーに乗車した時の運賃。

しかし、残念ながら今回は北総鉄道による北総線内の値下げ

スカイライナーは、京成成田空港線ということになっているので、北総鉄道の裁量外となり、運賃は据え置きとなります。

京成成田空港線のうち、北総線内のいくつかの駅に停車するアクセス特急は、北総線内の利用に限り、北総線と平仄を合わせての値下げとなります。

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北総線内は全駅通過となる京成スカイライナー

やっぱり会社は潰れるのでは?

さて、冒頭紹介した記事にも書きましたが、鉄道業界は新型コロナウィルスの影響を受けて、経営が苦しい状況です。

そんな中で値下げを行って会社は潰れないのか心配です。

北総鉄道の場合は、もともと累積赤字が大きく、現在の高い運賃で少しずつこれを解消してきているところです。

ここでいたずらに値下げをして、再び累積赤字が広がってはいままでの努力が水の泡です。

2020年度の北総鉄道の運賃収入は、94億7,100万円なので、単純計算で全体の値下げ率15.4%を掛けると約14億5,000万円ほど減収することになります。

2020年度の最終利益は、12億6,100万円だったので、輸送人員やコストが変わらなければ、再び赤字に転落になってしまいます。

しかし、それを知ってか知らずか、沿線の市長からは称賛の声が上がっています。

笠井喜久雄白井市長「通学定期の値下げ幅は予想以上。よく頑張ってくれた。」

板倉正直印西市長 「普通運賃も、現状で考えられる最大限の値下げをしていただいたと思う。」

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北総線内の主な駅に停車するエクセス特急

北総鉄道の戦略と、責任重大な沿線市長

北総鉄道は、値下げに関して、「コロナ禍でテレワークが進む中、子育て世帯や若者の沿線流入を促進したい。」と話しています。

北総線沿線は、京成線や都営浅草線への直通運転で都心方面への利便性は低くありませんから、通学定期を大幅に値下げすることで、子育て世帯の家計負担を減らして、安心して沿線で暮らせるようにする狙いがあります。

これにより、値下げをしてもそれ以上に輸送人員を増やすことで、赤字の回避を図ります。

しかし、僕たちは、都心への利便性や鉄道の運賃水準だけで住む町を判断しません。

当然、街の住みやすさや雰囲気、災害への強さなどいろいろな要素を総合的に判断します。

無視できない事実として、千葉県内で人口の増加率は千葉ニュータウンよりも都心に近い流山市で、つくばエクスプレスの開業効果と、流山おおたかの森など街のブランディングにも積極的です。

一方、利便性で若干引けを取る千葉ニュータウンは、印西市は2028年まで人口が増加する予測がありますが、白井市は人口減少が始まっています。

テレワークの普及により、都心への利便性よりも、その街自身の住みやすさのウェイトが判断要素として大きくなっています。

北総鉄道としては、「一旦」、やることはやりましたし、あとは、自治体主導のもと、「選ばれる街」として、しっかりと人口を下支えすることが求められます。

それに失敗すれば、千葉ニュータウンも、北総鉄道も共倒れということになってしまいます。

人口減少で再び値上げをすることにならないよう、運賃の次は「まちづくり」への期待と責任が高まります。

 

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激突!値上げの東急VS値下げの小田急!!

みなさん、こんにちは!

新しい生活様式の普及で激震する鉄道業界。

生き残りをかけた企業戦略の中で、運賃政策が注目されています。

JR東日本などは、ラッシュ時とそれ以外で運賃に差をつけるダイナミック運賃の検討を始めています。

そんな中、正反対とも言える運賃政策が2社から打ち出されました。

東急電鉄は、2023年春より、運賃の値上げを行うと発表しました。

また、小田急電鉄は、2022年春より、小児運賃を全区間一律50円とする、実質的な値下げを発表しました。

東急がかつて東京都以南の多くの私鉄を買収し、大東急と呼ばれた時代は、小田急も大東急の一部でしたし、西武グループと箱根輸送の覇権を争った、いわゆる箱根山戦争では、両者は手を組んでいます。

一方、両社の田園都市線小田原線は、渋谷・新宿から南西部の住宅街に伸びる競合路線となっています。

過去から関係の深い両社の正反対となる運賃政策を見ていきましょう。

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<目次>

 

 

1.東急電鉄の戦略

(1)どれくらい値上げするの?

東急電鉄の親会社である東急株式会社の2021年第2四半期決算説明資料によると、

改定率は10数%とし、実質的な増収率は10%未満を想定。

初乗り運賃は10円程度(きっぷの運賃:130円⇒140円)

鉄道の運賃は、過去の実績をベースに将来の収支を予測し、収入ー支出=適正利潤となるように上限運賃の認可を受けます。(総括原価方式)

足元の状況で収支を予測すると、適正利潤が不足あるいはマイナスになるため、それを補えるように収入総額は10数%(改定率)増えるように、切符の値段を上げさせてくださいということになります。

「改定率」と「実質的な増収率」の差が具体的には何を示しているのかは不明ですが、おそらく、「総括原価方式による収支予測では10数%値上げになるが、一部は企業努力で吸収しますよ」ということではないかと予想できます。

 

(2)乗客はもとには戻らない

東急の考え方の前提に、新しい生活様式の定着で、乗客の動向はコロナ前には戻らないという考え方があります。

決算説明資料でも、

テレワークの定着で定期券利用者が大きく減少、今後もコロナ前の水準への需要回復は見込めない

と語っています。

実際、東急は観光地に向かう有料特急も走っておらず、住宅街から都心へ向かう通勤通学客がメインターゲットです。

観光地があれば、リベンジ消費などで復活もあり得ますが、中華街などを除いてそこに期待ができません。

実際、東急の定期券減収率(対2019年度)は、関東大手民鉄の中では最大でした。

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東横特急は、観光地横浜・中華街に向かうが温泉街などのリゾート地は無く、フラッグシップ特急も走っていない。

(3)鉄道のクオリティは維持

東急はこれまで、多額の設備投資を行い、鉄道ネットワーク改良や安全対策を行ってきました。

混雑緩和や利便性向上のために、目蒲線改良・東横線複々線化事業、横浜駅地下化・みなとみらい線相直、大井町線改良・田園都市線複々線化事業、渋谷駅地下化・副都心線相直事業など鉄道ネットワークの改良に熱心です。

さらに、ホームドア・センサー付ホーム柵の全駅設置世田谷線こどもの国線を除く)、東急所属全車両への防犯カメラの設置全踏切への障害物検知装置の設置など、設備面の安全対策も行ってきました。

これらの高水準の設備の維持のためにも、値上げが必要とのメッセージを、東急は発しています。

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ホームドアが整備された田園都市線二子新地駅。上下ホームの間の通過線は、大井町線改良・田園都市線複々線化事業で建設された大井町線の線路。

 

(4)いまやっちまえ?

とはいえ、今後コロナの収束に伴い、定期券利用客も戻ってくるかもしれません。

また、東急には今後相鉄線との直通運転を控えており、運賃改定のタイミングは、相直開始の時期と重なります。

と、いうかおそらく同時に実施するでしょう。

コロナが完全に落ち着ききっておらず、先が見通せないこのタイミングで収支予測と国交省への申請を行い、その後の相鉄との直通による利用客増を新運賃で取りに行くという、したたかな戦略があるかもしれませんね。

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東急との直通向けの相鉄20000系電車。都心への新たな人の流れを作れるか期待が高まる。

 

2.小田急電鉄の戦略

(1)子供運賃、どれくらいオトク?

一方、小田急は、「こどもの笑顔をつくる子育てパートナー」であることを宣言し、その施策の一環として、ICカード利用の小児運賃を1乗車一律50円にします。

ICカード利用時のみで、切符で乗車の場合は、適用されません。

これまで他社では、長野電鉄の「こども無料乗車デー」や、バス事業者が夏休みやGWで小児運賃を50円にするキャンペーンなどがありましたが、このように恒久的に小児運賃を安くするのは、全国の鉄道初となります。

小田急小田原線を端から端まで乗ると、新宿駅小田原駅まで切符の利用で大人900円、小児450円ですので、これまでと比べて400円オトクということになります。

往復で利用すれば800円です。

なお、特急ロマンスカー小田原駅から先、箱根湯本駅まで乗り入れますが、小田原駅から先は箱根登山鉄道の線路なので、この部分は50円対象外となります。

小田原駅箱根湯本駅間は大人320円、小児160円ですので、今後新宿駅~箱根湯本間は小児運賃210円ということになります。

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2021年5月には、小さな子供が泣いてしまったも、温かく見守るよう呼びかけられた「子育て応援トレイン」も運行された。

 

(2)箱根で儲ける

企業戦略としては、運賃収入が減った分、どこかで取り戻す必要があります。

その重要な役割を担うのが、箱根です。

箱根への観光客は今後リベンジ消費も相まって期待ができますし、小児運賃の値下げインパクトで箱根へ出かける動機付けにもなります。

その分箱根でお金を落としてくれれば小田急グループ全体としては御の字でしょう。

実際、小田急はこれまで箱根に多額の投資を行ってきており、箱根エリアの魅力はどんどん高まっています。

ロマンスカーでは新型車両のGSE70000形が2018年に、箱根登山電車も3000形アレグラ号が2014年に、箱根登山ケーブルカーも2020年に新型車両がデビューしました。

また、ケーブルカーとロープウェイの乗換駅の早雲山駅は、箱根の山々を眺めながら足湯を楽しめる展望テラスや、ロープウェイビューのレストランや、ショップを備えたリニューアルが行われました。

さらに、芦ノ湖では海賊船もリニューアルし、2019年に「クイーン芦ノ湖」がデビューしていますし、温泉宿の「ホテルはつはな」も2022年秋に生まれ変わることになっています。

これまで仕込んできた箱根エリアに、家族で訪れてもらうことで、箱根への投資と運賃値下げの資金回収を一気に図れるかもしれません。

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展望テラスに足湯が設けられている早雲山駅

 

(3)商業施設で儲ける

日常生活という側面では、小児運賃の値下げで、「ちょっと電車でお買い物」という動機が生まれるかもしれません。

小田急は、町田や本厚木などに小田急百貨店がありますが、今ホットなのは、下北沢でしょう。

下北沢は、「シモキタ」として演劇、音楽、古着など古くから若者カルチャーをリードしてきました。

小田急下北沢駅は、2013年に立体交差事業で地下駅となりました。

その後、隣の世田谷代田駅まで続く線路の跡地は、「BE YOU シモキタらしく ジブンらしく」を開発コンセプトに、「であう」「まじわる」「うまれる」を支援する多様性あふれる街に生まれ変わりました

ここでは、商業施設やカフェのみならず、都市型ホテル、学生や社会人がひとつ屋根の下で暮らしながら学ぶ居住型教育施設、新たに飲食店や物販店にチャレンジする若者を応援する長屋商店街のほか、なんと、温泉旅館もあります。

こういったエネルギッシュな街に家族で訪れれば、元気ももらえること請け合いです。

なお、新宿にある小田急百貨店新宿店本館は2022年9月末で一時閉館し、今後オフィスと商業施設が入居する高層ビルに生まれ変わることになっています。

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画像出典:ODAKYU VOICE
https://www.odakyu-voice.jp/trip/2019_10/

 

(4)いつでももとに戻せる

なお、小児運賃の50円化は、認可を受けた上限運賃の範囲内で行われる運賃設定ですので、国土交通省へは届出のみで実施できます。

逆に言えば、元に戻すことも簡単にできます。

社会の理解や期待もあるため、実際は簡単に元に戻すことは難しいと思いますが、物理的には可能という安心感もあって、会社として舵を切ることができたということも、ありうるのではないかと思います。

 

3.鉄道会社は稼がないといけない

銚子電鉄ではないですが、鉄道会社は稼がなくてはなりません。

もちろん企業なのでそうなのですが、それ以上に、鉄道という存在は街を発展させ、経済を支えるインフラとしての機能を支えるためにも必要なことです。

これは、駅を持っている鉄道ならではの強みであり、バスやその他のモビリティにはできないことです。

また、これからの持続可能な社会を未来に残すためにも、輸送効率の良い鉄道はますます必要とされてくると思います。

東急や小田急のように、運賃という聖域に踏み入れて生き残りにチャレンジしていますから、僕たちも楽しく出かけて、彼らの努力を応援していきたいですね。

 

4.このお話には続きがあります。

smallanthussonchifolius.hatenablog.com

 

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