【2021/11/24】
北総鉄道の運賃改定内容確定に伴い、続編の記事を書きました。
smallanthussonchifolius.hatenablog.com
【以下、2021年10月執筆内容】
みなさん、こんにちは。
千葉県を走る北総鉄道が、2022年秋ごろに運賃の値下げを行うことが報道されました。
ご存じの方はご存じなのですが、北総鉄道は、日本一と言われる高額運賃の路線で、これまでも自治体や沿線住民から値下げの要望が上がっていました。
一方、JR各社や大手民鉄でさえ2020年度は赤字決算となりました。
鉄道業界全体か、新型コロナウィルスによる出控えが続く中、値下げを行っても会社は大丈夫なのでしょうか?
<目次>
1,北総鉄道とは何者なのか?
北総鉄道は、千葉ニュータウンへのアクセス路線として開通した北総線を運営する京成グループの会社です。
京成電鉄が約50%出資をしており、その他は千葉県や沿線の自治体が出資しています。
京成グループということもあり、京成線のほか、その先の京急線など複数の鉄道会社と直通運転を行っています。
北総線の路線は、一般には京成本線と接続する京成高砂駅から印旛日本医大駅と言われていますが、そのスキームはやや複雑です。
まず、京成高砂駅~小室駅までは、北総鉄道が線路や駅、車両などを保有し、運営も自ら行う第一種鉄道事業となっています。
次に、小室駅から印旛日本医大駅までは、同じく京成グループの千葉ニュータウン鉄道が線路、駅、車両を保有し、運営を北総鉄道が行うスキームになっています。
このような形態を上下分離方式といい、千葉ニュータウン鉄道から施設を借りて運営を行う北総鉄道が第二種鉄道事業者、北総鉄道に施設を貸し付ける千葉ニュータウン鉄道を第三種鉄道事業者といいます。
さらに複雑なのがここからです。
印旛日本医大駅から先も線路が成田空港方面に伸びており、成田湯川駅を経由して、京成本線からの線路と合流する接続点までは、成田高速鉄道アクセス株式会社が施設を保有する第三種鉄道事業を行っています。
そして、京成電鉄は成田空港へのアクセス向上を目的に、アクセス特急やスカイライナーを運転するため、京成高砂駅~小室駅間を北総鉄道から、小室駅~印旛日本医大駅までを千葉ニュータウン鉄道から、印旛日本医大駅~接続点までを成田高速鉄道アクセルからそれぞれ借りています。
この場合、京成電鉄は第二種事業者、貸している側は第三種事業者ということになります。
そのため、北総鉄道は、鉄道を保有しながら、自前で運営する立場と京成電鉄に貸す立場と二つの顔を持っているのです。
2,高すぎたこれまでの運賃
では、北総線内の運賃は誰のものになるのでしょうか?
京成電鉄は、北総鉄道に線路使用料というレンタル料を払っているので、運賃をもらう権利は、京成電鉄にあります。
しかし、北総鉄道は第一種事業者として自前の運営もしていますから、当然北総鉄道にも運賃をもらう権利があります。
このままでは、運賃の取り合いでケンカになってしまいます。
そこで、両者間で運賃の配分ルールが決められています。
ただし、結論から言うと、北総鉄道の取り分はものすごく少ないです。
例えば、スカイライナーやアクセス特急で北総線を端から端まで通過利用した場合の運賃は、すべて京成電鉄。
また、北総線内の利用でも、アクセス特急の停車駅から成田スカイアクセス線方面の利用なども、京成電鉄の運賃となります。
これらのスカイライナーやアクセス特急が走った分の線路使用料がもらえるものの、メジャーな乗客の運賃がもらえない北総鉄道は、地元オンリーの利用しか飯の種がなく、細々と運営をせざるを得ず、その分一人当たりの運賃を高くせざるを得ないのです。
さらに、高額な建設費用と、その資金を調達するのに必要な利息費用を負担していることも、運賃が高額になる原因になっています。
北総線は千葉ニュータウンの建設と同時に行われた関係もあって、京成高砂駅付近を除き、踏切がない高規格路線ですが、かなり高い建設費用と利息費用を負担しているようです。
3,運賃はこうやって決まります。
しかし、コストが高いからと言って、鉄道は自由に運賃を決められるわけではありません。
鉄道は公共性が高い乗り物だからです。
一般の商品ですと、値段を上げればその分買う人が少なくなるので、ちょうどいい値段が設定される市場原理が働きます。
しかし、鉄道は運賃を上げたからと言って、「じゃあ会社に行くのはやめよう」というわけにはいきません。
そうすると暴利を貪ることができてしまうので、運賃はその上限額を、国土交通省に認可を受けなくてはならない仕組みになっています。
具体的には、総括原価方式という方式をとります。
総括原価とは、鉄道の運行に必要なコストの合計に適正利潤を足した金額のことで、計算上総括原価=収入の合計となるように、運賃額の上限の認可を受けます。
その上で、輸送人員の見込み人数や1人あたりの乗車距離を勘案して、距離当たりの運賃が決まり、最終的には券売機の上にある運賃表が定められます。
なお、これだけでは、コスト削減の努力をせずに、次々と運賃に上乗せしてしまうので、鉄道の規模(施設量)に応じた適正コストを超える分は、総括原価に含められない仕組みになっています。(ヤードスティック)
北総鉄道の場合は、総括原価に、多額の建設費から生じる固定資産税などの税金費用、施設の摩耗を示す減価償却費、借入金の利息などが計上され、さらに、輸送人員の見込み人数が少ないため、1人あたりの運賃が高額になっているわけです。
4,そんなに値下げできないかもしれない。
残念な結論を先に書いてしまいましたが、実際どれくらい値下げができるのでしょうか?
なお、国土交通省の判断もあるかもしれませんが、認可を受けた上限運賃の範囲であれば、運賃の値下げは事前の届出でよいので、総括原価方式というよりは、株主であり、スカイライナーの運賃にも影響する京成電鉄や地元自治体と協議して決めていくことになると思います。
北総鉄道の2020年度決算は、本業の儲けを示す営業利益は、対前年度19億円減益の22億円、最終利益である当期純利益は、対前年度12億円減益の12億円でした。
コロナの影響を受けているものの、それでも黒字を保っているのは、運賃が高額である表れかもしれません。
輸送人員の合計は約3,003万人。
旅客運輸収入が94億7,100万円ですから、1人あたりの平均運賃は315円ということになります。
高いですね。
単純計算で1円値下げをすれば、3,003万円収入が減る計算になります。
なので、最大値下げ幅は41円ということになります。
そうすると、北総鉄道の利益はほぼゼロになりますが、平均運賃は264円に・・・。
そんなに安くなった気がしないうえに、ここまでの値下げはできないでしょう。
詳細は公開されていませんが、親会社への配当も必要でしょうし、今後路線を維持するために一定の内部留保も必要だからです。
ちなみに、北総鉄道と同様に運賃が高いと言われているつくばエクスプレスの平均運賃は、2020年度で296円でした。
この北総鉄道運賃問題は、建設費の負担や、事業スキーム、千葉ニュータウンの政策自体の功罪など本を一冊書けるほどの深い問題を抱えており、一部には訴訟にも発展しているとか、しないとか。
このあたり、さらに詳しい方がいらっしゃいましたら、この記事に言及したうえで、補足の記事を書いていただけると嬉しいです!
5,今回貢献したSDGsターゲット
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