人と環境にやさしい鉄道。
日本民営鉄道協会によれば、お客さん1人を1km運ぶのに発生する二酸化炭素(CO₂)は、自家用車のわずか1/7なんだそう。
鉄道が走るときに発生するCO₂は、主に、電気を発電する時に、火力発電所で石炭や石油から発生するものと、ディーゼルカーが軽油を燃やして走るときの排気ガスがあります。
最近は石炭や石油を燃やすのではなく、太陽光や水、風などの自然の力(再生可能エネルギー)で発電し、CO₂ゼロで走る列車も登場してきました。
SDGs達成目標年の2030年が迫る中で、再エネで走る電車はどれくらいあるのでしょうか?
<目次>
1.再生可能エネルギー由来の電気で走る電車
再生可能エネルギー由来の電気実質100%で走っている電車は次の通りです(主なもの)。
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東武日光線の下今市駅~東武日光駅と、鬼怒川線(下今市駅~新藤原駅)と両線に乗り入れてくる特急列車(スペーシアX、スペーシアきぬ・けごん、リバティきぬ・けごん・あいづ)は再エネ電車です。
日光市は脱炭素先行地域に指定されていて、東武鉄道もこのほか日光MaaSなど、エコツーリズムに通じる取り組みを行っています。
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西武鉄道のレオライナーは、西武球場前駅から西武園ゆうえんち駅を通り、多摩湖駅に向かう新交通システムで、西武武山ソーラーパワーステーションで発電した電力で走っている再エネ電車です。レオライナーは、多摩湖周辺の緑豊かなエリアを走るため、SDGsのイメージにピッタリです。
なお、西武鉄道は、2024年1月から全線で再生可能エネルギー100%での運転を開始すると発表しています。 -
羽田空港に向かう京急空港線(京急蒲田駅~羽田空港国内線ターミナル駅)も再生可能エネルギーで走っています。次のスカイライナーも同様ですが、海外からのお客さんを脱炭素で運ぶのは、良いPRにつながります。特に欧米の皆さんはサステナブルへの意識が強いので、ぜひ環境にやさしい鉄道を選んでほしいです。
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京成スカイライナー
京成上野駅・日暮里駅と成田空港駅を結ぶスカイライナーは、最高時速160kmで、空港第2ビル駅~日暮里駅は最短でわずか36分。こちらも外国人の方が多く乗りますし、都心までの利便性も高いので、ぜひ世界中の方に使ってもらいたいです。
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阪急阪神ホールディングスが阪急線・阪神線で走らせるSDGsトレイン未来のゆめ・まち号は、再生可能エネルギーで走るだけでなく、ラッピングや車内のポスターなどで、SDGsの啓発に取り組んでいます。創業者のつながりもあり、後述の東急電鉄とともに、東西でSDGs推進に取り組んでいます。
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南海高野山ケーブルカー
霊験あらたかな金剛峯寺がある高野山。南海電車で行ける極楽橋駅から先はケーブルカーに乗車します。高野山と高野山麓は、2004年「紀伊山地の霊場と参詣道」として世界遺産に登録されていて、弘法大師空海にも胸を張れるSDGsへの取り組みです。
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JR東日本は東北エリアの脱炭素化を推進しています。JR東日本はもともと自前で水力発電所を保有しており、他の鉄道に比べて再生可能エネルギーのミックス割合が多いのですが、まずは常磐線や仙石線の脱炭素化を進めていきます。これ以外にも、水素で走る車両の開発を進めるなど、環境対策に積極的です。
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JR武豊線
JR東海は、愛知県を走る武豊線で再エネ運行を行っています。路線が短く、列車の本数も少ないため、規模は他社よりも小さくなります。一方、ディーゼルエンジンで、車輪ではなく発電機を回すことで電気を発生させ、その電気で走る環境性の高い新型特急HC85系の開発や、そのエネルギー源としてユーグレナ社と連携したバイオ燃料を使用するなど、技術開発や省エネ施策も行っています。 -
山陽新幹線(2027年までに使用電力の約10%相当)
JR西日本は他のJRグループに先駆けて新幹線への再生可能エネルギーの導入を進めます。新幹線で使用する電力は莫大なので、段階的に入れていく計画です。
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JR西日本の在来線では、大阪環状線とゆめ咲線の脱炭素化を進めます。大阪環状線は、大阪の基幹路線であり、関空特急はるかや関空快速電車も走行し、多くの外国人の利用もあります。また、ゆめ咲線は、ユニバーサルスタジオジャパンへのアクセス路線でもあり、さらに、2025年に開催される大阪・関西万博開催に向けて、夢洲への延伸計画もあり、国際社会へのPRも含めての取り組みになっています。
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東急電鉄全線
最後に真打となりますが、東急線は全路線で再エネ運行を行っています。1つの鉄道会社が全路線に再生可能エネルギーを導入するのは日本発で、東急の乗り入れてくる他社の車両も東急線内は再エネで走ることになります。東急線沿線は、東急多摩田園都市に代表されるように長年東急が育ててきた独特な街とシビックプライドがあります。東急線沿線の街まるごと脱炭素化することで、先進的でサステナブルなライフスタイルを提案し、街の魅力をさらに高めています。
2,鉄道の再生可能エネルギーはまだまだこれから
このように、いくつか再エネで走っている路線を紹介しました。
しかし、日本には合計149路線(宮田珠己、井上マサキ、西村まさゆき『日本の路線図』2020年)があり、全路線への導入を目指すならばまだまだ途上と言えます。
旅客鉄道は自動車に比べるとCO₂排出量(旅客1人1kmあたり)が約1/9と最も環境にやさしい公共交通ですが、全体の使用電力量は約172億kWh/年と途方もない量の電気を使用しています。
CO₂の排出量も約757万トンと日本全体のCO₂排出量の約0.6%を占めており、業界全体で脱炭素化を進めていく必要があります、
では、他の路線にも再エネを導入していくにはどうしたらよいのでしょうか?
https://www.mlit.go.jp/common/000219687.pdf
3,環境にやさしい鉄道を選んで利用する。
再生可能エネルギーを導入するには、やはりお金がかかることには間違いありません。
しかし、すでに再エネ運行を行っている路線で、再エネ導入を理由に値上げがされた路線は1つもありません。
鉄道の運賃制度の制約もあり、すべて経営の自助努力で取り組んでいるものです。
私たちは、自分たちの財布を痛めることなく、地球環境を守りながら移動ができるので、積極的に鉄道を使っていきたいですし、その中でも再エネで走っている鉄道を選んできたいものです。
しかし、そもそも鉄道が環境にやさしいということ自体なかなか知られていませんし、ましてどの路線が再エネで走っているかなどはまったくわかりません。
券売機や自動改札機に書いておいてくれればいいのに・・・。
4,再エネ運行をみんなに知ってもらうクラウドファンディング
以前は、東急電鉄が再エネで走っていることを知ってもらおうと、クラウドファンディングが行われました。
東京都環境局が選定した事業を推進するDO!NUTS TOKYOに参加する若者たちが取り組んでいるもので、「消費者と一緒にプロモーションをする」という独特なアイデアが特徴です。
私も鉄道マニアなので車内や駅のポスターはまじまじと見るタイプですが、いわゆる啓発のポスターなどはスルーしてしまいます。
そこで、いろいろな方から写真などを集めて、みんなに知ってもらいながらモザイクアートを完成させ、それを見た人も「嗚呼、電車に乗るってSDGsなんだ」と気づきを得るという仕掛けなんだそう。
これには、東急電鉄もオフィシャルに応援していて、メッセージを出したり、クラファンの返礼品を提供したりもしていました。
なんと!長津田車両工場に入れたり、電車とバスの博物館を貸し切れたり、東急版ドクターイエロー「TOQ-i」に乗れたりする返礼品も!
私も微力ながら支援をさせていただきまして、オリジナルの水筒が返礼品としてもらえることになっています。楽しみ♪